コダーイ・コンセプト
●「音楽はすべての人のもの」
音楽はエリートのための娯楽ではなくて、すべて公的な財産にしていくべき、精神的な力の根源です。
●音楽の真髄に近づくもっとも良い手段は、誰もが持っている楽器、喉を使うこと。
コダーイは、人間の声をもっとも役立つ、そして音楽を理解し鑑賞するのにもっとも有効な楽器であると考えました。
●音楽的母語であるわらべうたや民謡から音楽教育を始めなければならない。
民謡はそれ自身が完全な形をしており、言葉と音楽がうまく調和した、民族の心の自然な表現です。
民謡はわれわれの音楽教育の基礎としてあるばかりではなく、純粋に音楽的価値を持つものです。
コダーイ・ゾルターン(1882年12月16日〜1967年3月6日)
作曲家、音楽学者、民族音楽学者、そして人間主義者であったコダーイ・ゾルターンは1882年12月16日にハンガリーのケチケメートで生まれました。鉄道会社の事務員をしていた父の転勤でサブに引っ越したのはコダーイがまだ生まれて数か月のときでした。その後再び父の転勤でガラーンタに引っ越しましたが、コダーイの家族はここで長い間生活しました。
コダーイは幼少の頃をはっきりと記憶していて、それについて繰り返し述べており、また彼の音楽教育の概念にも大きな影響を与えています。自分の個人的な経験から、コダーイは音楽に囲まれて生活することの大切さを知りました。彼の家では家族や友人がいつも室内楽を演奏し、教会においても音楽があり、学校でもオーケストラがありました。コダーイが強い畏敬の念を持っていた古代ギリシャにおいてそうであったように、コダーイの幼少期は音楽が生活の中心となっていました。
小学校を卒業すると(そこではギリシャ語とラテン語を学びましたが)、当時パリのエコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)と同格とされた、ハンガリーで最も優れた大学であるエトヴェシュ大学に優れた成績で入学しました。それと同時にリスト音楽院の作曲科にも合格しました。
大学卒業とほぼ同時にリスト音楽院において音楽理論を教える教授となりました。音楽院の学生たちの読譜力が乏しいことを懸念し、彼らの読譜力の向上のために尽力しました。その後、作曲の教授になりましたが、大変優れたハンガリーの作曲家たちを輩出しました。
コダーイの民族音楽の研究は1905年に集められたマーテの国の歌から、哀歌集にわたるまで、ほぼ60年にも及んでいます。何千曲もの歌が、再び演奏できる形で書き記されたのです。
今日において、コダーイは、ハンガリー詩篇やチェロのための独奏曲のソナタなどの多くのすばらしい作品を作曲した20世紀の偉大な作曲家の一人として知られています。しかし、コダーイは幼い子供たちのためにも簡単な合唱曲を作曲しています。それについて、彼自身がこのように述べています。「私たちは、できる限り幼いときから、子供たちによい音楽を教えなければなりません。良い教師の他に、初心者や子供たちのための良い作品が必要なのです。私は多くの時間を費やして子供たちのための合唱曲や音楽学校の教科書を書いてきました。もっと大規模な作品を作曲する代わりに、そのような作品に力を注いできたことを決して後悔することはないでしょう。」
コダーイ・ゾルターンの教育に関わる功績の主な特徴は、新しいことを始めたら、途中で投げ出さずに継続することができる力と、音楽というものがすべての人のものであるという実に民主的な原則に基づいているということです。コダーイの教育思想が本格的に形となったのは、当時は彼の生まれ故郷にすぎなかったケチケメートという小さな町で1950年に最初の音楽小学校を立ち上げたことに始まり、やがてブダペストや他の地域にもコダーイを支持する人々によって広められていきました。
コダーイは音楽について、「歌うことに焦点を当てた音楽教育が、子どもたちの思いや心を開放する役割を果たし、学校のカリキュラムにおける他の教科にも良い影響を及ぼす」という信念をもっていましたが、それらの場所においてコダーイのこの信念が証明されたのです。
14年後に、国際的な音楽教育の組織であるISME(国際音楽教育学会)の世界大会が1964年にプダペストで開催され、コダーイ・コンセプトによる音楽教育の信じられないほどの成果に驚きと関心が集まりました。それ以来、コダーイの音楽教育は全世界のためのお手本となりました。これまでに、何千人もの教育者がコダーイ・コンセプトを学ぶためにハンガリーを訪れています。現在では、コダーイの音楽教育は5つの大陸において実践されています。
(International Kodály Societyからの翻訳)
コダーイ語録より
「良い音楽家の特徴は、よく訓練された耳と、よく訓練された思い、よく訓練された心と、そしてよく訓練された手である。これら4つの部分はバランスよく、ともに発達していく必要がある。」
(コダーイ・ゾルターン)
「よい民謡というのはそれ自体が完成された最高傑作なのだ。」
(コダーイ・ゾルターン)
「私が強く確信していることは、音楽がともにある生活をするのにふさわしくなればなるほど、より幸せな人生を歩むことができるということだ。どのような方法であっても、そのために自らを捧げる者は、決して無駄な人生を歩むことはない。」
(コダーイ・ゾルターン)
「もしこの教育の要素を一言で表現しようとするならば、それはまさに『歌う』という言葉しかないであろう。」
(コダーイ・ゾルターン)
「音楽は、人類全般の知識にとって、欠かすことのできない要素である。誰でもこの知識なしに正しい知識を得ることは出来ない。音楽のない人は不完全である。音楽が学校の教科のひとつであることは明確なことである。それは不可欠なのだから!」
(コダーイ・ゾルターン)
「生徒たちにとって、音楽を学ぶことや歌うことが拷問ではなく、
喜びとなるように学校で教えなさい。生徒一人ひとりに、生涯にわたって優れた音楽を切望する心を植え付けなさい。」
(コダーイ・ゾルターン)
(International Kodály Societyからの翻訳)
ハンガリーの音楽教育において用いられる専門用語について
参考文献
「音楽大辞典」:平凡社
「読譜力」東川清一 :春秋社
「保育園・幼稚園の音楽」コダーイ芸術教育研究所編:明治図書
「ソルフェージュ教授法-1」セーニ・エルジェーベト(羽仁協子訳):全音楽譜出版社
「コダーイ・ゾルターンの教育思想と実践」中川弘一郎編・訳:全音楽譜出版社
「333のソルフェージュ」コダーイ・ゾルターン(中川弘一郎訳・降矢美彌子解説):全音楽譜出版社
「わらべうたによるソルフェージュ」コダーイ芸術教育研究所編:全音楽譜出版社